あてもなく

誰かへの手紙

「もったいない」って言わないで

自分で言うのもナンだけど、わたしはわりと仕事が出来る方の人間だと思う。

 

タイピングが速くPCの操作に慣れているので、Word、Excel、PowerPointでちょっとした書類ならサクッと作れる。

文章を書くのに慣れているので、誰かに何かを依頼したり、問い合わせをしたり、状況を説明したり、話し合いの経緯や結論をまとめたりするときに、文書を仕立て上げるのもわりと簡単にできる。

zoomの会議室を開くこともできるし、自分がホストになって画面共有しながらプレゼンすることもできる。

オンラインでもリアルでも、会議を仕切って効率よく話し合いを進めることもできる。

 

地域活動やら、高校までのPTA活動とか、そういう場面で普通に対応していると、大体、

「たびのひとさんって、前職は何やってた人なんですか?」

って必ず聞かれる。

 

前職ねぇ。

このブログでも散々書いてきたけど、わたしには、きちんとした職歴なんかひとつもない。

新卒で採用してもらった正社員の仕事は、結婚を機に1年3ヶ月で辞めた。それがもう20年も前のこと。

その後は、派遣で週2時短の入力の仕事、歯科助手のバイト、子育てブランク10年、役所で報告書をフォーマットに入力するだけのパート、カード会社で電話取るパート、ハンバーガーショップのバイト、以上である。

 

なので、

「これといった職歴はないですよ。正社員だったのは新卒の1年ぐらいで、あとは事務系のパートなんかをちょこちょこやってただけ」

って感じでまとめてお答えすると、次に必ず言われるのがこの言葉。

 

「えーっ、それはもったいない!」

 

言ってる人はそんなに深く考えてなくて、ただ誉めたい気持ちで言ってくれてるのはわかるので、そこであえて突っかかったりはしません。

「いえいえ、そんなことないですよ」

って謙遜するぐらい。

でもね、そういうやりとりがあったあとは、いつも心にクサクサした気持ちが残る。

 

「もったいない、って何やねん」

何が何に対してもったいないのか、と。

「以前は、広告代理店に務めていました」とでも言えば納得するのだろうか。

 

この一連のやりとりで、引っかかるポイントはふたつある。

 

ひとつめは、

「どこかの企業に勤めてきちんとお給料を貰う」という狭い意味での職業を持っていない限り、人は成長できないし、ビジネススキル的なものなんか到底身につけられないと考えている点。

 

ふたつめは、

能力の高い人間は「どこかの企業に勤めてきちんとお給料をもらう」という狭い意味での活躍をしなければならない、そうでなければ能力は無駄になると考えている点。

 

この考え方は多分、現代社会で広く行き渡っている考え方だと思う。

わたしの履歴書を見た採用担当者は100人が100人、この人はもう会社で働くの無理だよねって思うだろう。わたしも、それはすっかり身にしみたので、世の中に対して「働かせてください」ってすり寄ることをやめたのだし。

それなのに、わたしの能力を目の当たりにした人は、それを「もったいない」って言ってくる。

そんなんわたしに言われても。

わたしは自分の能力を自分や身の回りの人のために使って生きてるんです。

わたしにとっては、ひとつも「もったいない」ことなんかないんですよ。

 

だとしたら、「もったいない」っていうのは、搾取する側の言い分なんじゃないかしら。こんな高い能力をタダで使ってるヤツがいるのか、ズルいぞ、みたいな。

 

それを言う人の中に、そこまでの深い悪意がないことはわかっているので、これまでわたし、いちいち突っかかったりはしてこなかった。

それは仕方がないことだと思って、ブログに愚痴とか書くぐらいで。

 

でも、ついにわたしも少し変わらなきゃいけないんじゃないかって気がしてきた。

 

わたしは最近地域の活動に参加するようになって、営利とはまた違った方向から社会を良くするということについて考える機会が増えている。

「社会を良くする」ってすごく抽象的で難しい話になるけれど、たとえば、「多様性を認める社会」ということを考えるなら、まずは身近なところから、人の心の中にある固定概念を揺るがしていくことが必要なのかも、と。それもわたしのミッションなのかも、って少し思ったのだ。

 

わたしについ最近「もったいない」って言ったのは、わたしより10歳も年下の女性だ。

その人は、現在育休中の時間を利用してわたしとおなじ地域活動に参加している。なんと3人もお子さんがいて、一番下の子が1歳半。来年の春には正規の仕事に復職予定だという。

そういう人にとっては、わたしのような家庭に入ってしまってろくに社会に出てこられなかった女っていうのはちょっと「被害者」みたいに見えてしまうのかもしれない。

女性も外で男と同じように働けることが「多様性」みたいに思われている向きもあるけれど、わたしはそれも少し違うと思う。

わたしは、いろんな立場や事情の人が、自分に合った形で能力を活かしていける社会が多様性のある社会だと思っているので、これからは、その考えを周りにも少しずつ伝えていきたい。

 

だから、もしまた誰かに「もったいない」って言われるようなことがあったら、受け流すんじゃなくて、ちゃんと「”もったいない”って言わないで」って言おうと思う。

 

→その後の話。書きました。

www.atemonaku.com