あてもなく

誰かへの手紙

風邪予防・コロナ予防は心がけ次第?

日頃から気を付けて行動し、正しく対策をしていれば、コロナに罹ることはないし、感染が広がることはない。

 

そういう前提のもと、今の社会はどうにかこうにか回っていこうとしています。

 

きちんとガイドラインを守っている店は安全だから営業しても良い。

利用する人もきちんと気を付けていれば安全だ。

 

気を付けていれば大丈夫。というのは、パッと見、安心なことのようにも思えます。

でも、よく考えるとちょっと恐いなあと思うのです。

なぜなら、その前提は、裏を返すとこういう考え方につながるからです。

 

コロナに罹ったのは、ちゃんと気を付けてなかったからだ。

ある店で・劇場で・ライブハウスで、クラスターが発生したのは、その施設がガイドラインを守らずいい加減な営業をしていたからだ。

そして、そういう場所だということを見抜けずにそこへ出かけてしまった利用者にも問題がある、と。

実際に、コロナに感染した有名人やコロナのクラスターを発生させた施設は「謝罪」のコメントを出しますし、批判的な報道がなされます。

 

現状では、まだ実際にコロナに罹った人というのは少数派です。

多数派は、自分たちが安心するために罹患した少数派の行動に「非」を見いだそうとします。罹った原因を「考えが甘い」とか「意識が低い」として、「わたしたちはあの人たちとは違うから大丈夫」と思いたいのかもしれません。

 

ところで、先日岩手県で初めての感染者が見つかったというニュースがありました。

 

www.asahi.com

 

 陽性が確認された盛岡市の40代男性について、男性が勤める県内の企業は29日夜、HPで従業員の陽性を発表した。男性は発症後に2日間出勤しているが、内勤のため顧客と接することはなかったという。

その後、この企業には電話が急増し、31日までに約100件あった。通常の問い合わせなども含むが、中傷も少なくないという。差別的なメールのほか、事業所に直接来て中傷するケースもあった。担当者は「電話を受ける側も悩んでいる」と頭を抱える。

 

このぐらいひどい話だと、多くの人は「中傷はあってはならない」と思うでしょう。

 

www.tokyo-sports.co.jp

 

が、一方で、コロナに罹った有名人をマスコミが「懲りない」と名指しで叩くような記事が出て、こちらの方には「コロナにかかったのは自業自得」みたいな反応が多く見られます。

同じ人が同じ口で、岩手の感染者を擁護しながら石田純一を叩く。そんなもんです。

 

何の力も知名度も持たない一般市民が中傷されるのは「自分の身に置き換えたら」と想像が及ぶので気の毒だと感じるけれど、芸能人などちょっと別次元の存在だと叩いても平気って思っちゃうんでしょうか。

実際、岩手の感染者のことも、そこまで叩くのは良くないけれど、コロナにかかるってことは本当は彼らの行動にも落ち度があったんじゃないかぐらいに思っている人が多いんじゃないかという気がします。

 

コロナの問題が持ち上がる前からですが、最近は「体調管理」という概念が広がっていて、風邪を引く人は社会人としての自覚や責任感が足りない人=だらしない人と捉える流れが強まってきていたように思います。

「バカは風邪引かない」なんて言葉があったように、昔はどちらかというと風邪を引く人のほうが正常とされてきたようなフシがありますが、今は「バカは風邪を引く」と言われかねない時代です。

たとえばわたしが子供時代を過ごした昭和の終わり頃なんかに比べても、現代の人々の衛生観念や健康に対する意識はものすごく向上したと思います。それに伴って、最近の人は自分の体調を自分で完全にコントロールできると考える傾向が強くなってきている気がします。

そうして風邪は「心がけ次第で予防できるもの」と思われるようになっていったのではないでしょうか。

 

でも、全部が全部そうなんでしょうか。

日頃から真面目に暮らして体調管理に気を遣っていても、ちょっとしたきっかけで誰しも風邪を引いてしまうことってありますよ。

そんなとき、「心がけ次第で予防できる」という考え方がスタンダードな世の中だったら、風邪を引いた時に自分で自分を責めることになってしまうし、周囲の人からも「心がけが悪いから」と責められてしまいます。

それよりは「いつ自分が風邪を引くかわからない」「自分の心がけだけで防げるものではない」ぐらいのところにスタンダードが置かれている社会のほうが、自分の風邪にも他人の風邪にも寛容になれて、安心なんじゃないかという気がするのですが、いかがでしょうか。

 

わたしも、ある程度は「健康管理」って大事なことだとは思ってますけど、自分や周囲の人が風邪を引いた時に、風邪を引いた本人を責めるようなのは間違ってると思います。

 

新型コロナも同じことですよ。

そろそろ、いつ誰がかかってもおかしくないぐらいに広がってきている今、罹った人に冷たい視線を浴びせるような風潮は早めに排除していくべきだと思います。

少なくとも、わたしはそういう感染者ひとりひとりの行動を書き立てて、その人の「非」をあげつらうような報道は好きではないですね。