あてもなく

誰かへの手紙

いつでも休める優しい職場は、裏を返せば厳しい職場でもある

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以前こんな文章を書きました。

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代わりの人を見つけないと休めないってわけではないよ。

ていうか、大体簡単に代わりの人って見つかるから心配しなくて良いよ。

という内容のことを書きましたが、なんだかまたそれから状況が変わってきた気がするんですよ。

まだあれから2ヶ月も経ってないのにね。

急にバイトに行けなくなった!どうする?

ある日の夜遅く、ファストフードのバイトのグループLINEに、

「明日朝8時~12時のシフトに入っているのですが、就職の採用面接が入ってしまったため行けなくなりました。急で申し訳ありませんが、誰か代わってくれませんか」

というメッセージが投げかけられました。学生のスタッフからです。

その日はわたしもほぼ同じ時間帯にシフトがかぶっていたので、わたしが代わりにはなれません。時間も遅く急なヘルプ要請だったため、誰からも返信はありませんでした。

そして、結局代わりに入ってくれる人は見つかりませんでした。

 

こういう場合ってどうなると思いますか。

学生スタッフは就職をあきらめバイトに出勤しなければならないのでしょうか?

もちろんそんなことはありません。

学生スタッフはそのまま欠勤して面接へ。

お店は補充なしで、残りのメンバーだけで運営します。

もしかしたら、そんな事は「許されない」とされている職場もあるのでしょうか?

だとしたら、わたしの働く店は「代わりの人が見つからなくても自分の都合で休める、働く人に優しい職場」と言えるでしょう。

人手がギリギリの職場で、残された人々は

さて、当日。わたしは普通に自分のシフトに入るため出勤しました。

わたしのシフトは9時からです。着替えの時間など余裕を見て少し早めに店に行きましたが、その時点で店はかなりてんてこ舞いの様子。元々ギリギリの人数でしかシフトを組めていないので、1人休んだだけでも本来の必要人数を割り込んでしまうのです。

9時になってわたしともう一人の主婦スタッフが入りましたが、依然として人数が不足しているため、少しでも並ぶと普段通りのサービスは提供できない状態になってしまいました。

 

いつもなら、お客さんがモタモタと小銭を探してるうちに商品ができあがってお渡しできてしまうこともあるぐらい速い、文字通りの「ファストフード」ですが、その日は会計が先に済んで商品を待っているお客さんの列が店頭に溜まってしまう状況になりました。また、新規のお客さんもどんどん来店して、会計待ちの列も店の外まで伸びはじめました。

店の様子を見てほとんどのお客さんは「ああ、人手が足りないんだな」ということを察知して黙って待つか、購入を諦めて立ち去られるかです。

しかし、お会計済みで商品待ちの、諦めて帰るわけにはいかないお客さんの中の一人がついにキレました。

 

「おまえらは一体何をしているんだ!!いつまで待たせる気だ!!」

「ふざけるんじゃないぞ!!真面目にやれ!!」

(ちなみに、高齢男性です。こういうとき怒るのって大抵おじいさんですよね)

 

何をしてるのかって…いつも通り真面目に順番に仕事をしています。

ふざけてるヒマなんてありませんし。

ただ、人が足りないのでその順番が進むのが遅くなっているのです。

遅くなったことは謝りますが、怒られたからといって速くなるわけではありません。

もう精一杯頑張って動いているので、これ以上はどうしようもないのです。

 

この調子で、もう少し遅い時間からのシフトのスタッフが徐々に出勤してくるまで、わたしたちは息をつくヒマもなく働き続けました。

 

「代わりの人が見つからなくても自分の都合で休める、働く人に優しい職場」は、立場が変われば「人が減っても補充なし。そのままの人数で必死で働かなくてはいけない、厳しい職場」でもある、ということです。

優しくあるために、引き受けなければいけない厳しさがある 

わたしを含む残されたメンバーは、1人のスタッフの急な欠勤により大変な思いをしましたが、急に休んだ学生スタッフのことを悪く言ったり恨み言を言うような人は一人もいませんでした。

波が過ぎて店に平和が戻ったとき、みんなで顔を見合わせて「いやあ、大変だったね~」と笑い飛ばして終わりです。

 

代わりの人が見つからなくても休める

休んだ人が誰からも責められない

 

こういう雰囲気の職場でよかった、と、わたしは思います。

どちらかというと、わたしは急に休ませてもらうことより、人数が少ない中踏ん張る側になる事のほうが多い立場だろうけど、それでも、どうしても都合が悪くて休みたい人が出勤を強要されたり、迷惑をかけたと他の人から責められたりするような職場は嫌です。

人に優しくするためには、どこかで厳しさを引き受ける人が必要です。

 

こういう話になると

「代わりの人を見つけるのは店の経営者の責任だ」

ということもよく言われるのですが、休みたい本人が呼び掛けて代わりに手を挙げる人がいないのに、店長なり社員が代わりを探して必ず調達しなければいけないとしたら、それなりの強制力を発動しなければなりません。

もともと非番のスタッフに「人が足りないんだから、お前、来いよ」などと電話をかけて、断りにくい圧をかけてまわる、みたいな。

だけど、もしそんな職場だったら籍を置くことさえ負担になります。 

もしヘルプを頼まれても都合が悪ければ簡単に断ることができ、絶対に強制されないというのが「働きやすい職場」の条件ではないでしょうか。

そして、その働きやすさと引き換えに、 わたしたちは突発的に発生する「人手が足りないキツイ現場」をやむを得ず引き受けるのです。

 

ま、正直なところ、あんまり貧乏くじが続いたらわたしもこの仕事を続けるべきかどうか考えてしまう部分はあるんですけど。

その辺のバランスってとても難しいところですよね。

本当は、山ほどたくさんの登録スタッフがいて、絶対に誰かしらがヘルプの手を挙げてくれる状態であればいいんですけどね。

うちの店、今年度に入ってから急に学生さんが減ってしまってちょっとどうにもならなくなってきました。

もしかしたら、お店つぶれちゃうかも。

これだけ混むんだから、そこでお店をやる需要があるのはわかるけど、それでも働く人がいなかったらお店ってやれないんですよね。

人手不足と、お店が成り立つ最低限のサービスとは

ここからは余談ですが。

商品がなかなか出てこなくて怒鳴ったお客さんね、おそらく普段からよく店を使ってくれている人なんだろうと思います。

通常時なら、何のストレスもなくさっさと商品を受け取ってとっくに食べ始めている頃なのに、いつまでたっても出てこない。だから、腹が立ったのでしょう。

でも、「ふざけるな」「真面目にやれ」という言葉は、カウンタの向こうで働いている者たちが、ひとりひとり心がある人間だと思っていれば出てこないはずなのですが。だって、どう見ても全員必死ですよ。

 

とはいえ、目の前の店員たちがどんな様子で働いているのか、店がどういう状況に置かれているのか、それはお客さんには全く関係のないことなのかもしれません。

「ふざけるな」はわたしたちに言っているようで、実は企業としての姿勢について言っているのかもしれませんね。

企業として、いつも通り同じレベル(価格・味・はやさ)で商品を提供しますという約束、信用があるからお客さんは安心して食事をしに店にやってきてくれます。

だけど、働く人が減ってしまったので、その約束はもう守れなくなりそうです。

約束が守れない店は、看板を上げる資格がありません。

だから、わたし、そのうちあの店は続けられなくなっちゃうかもしれないなと思います。それこそ、店長や社員レベルではなく、企業が企業としてなんとかしようと動かない限り。

 

学生さんが大幅に減ってしまったため、この土日がまさにピンチらしいです。ヘルプ要請のLINEも届いています。

だけど、わたしは家庭と自分の休息優先なので、土日にはバイトに行くことはできません。お店はなくなって欲しくないけど、そのために自分の時間を犠牲にしてまで守りたいわけでもないのです。

 

これってね、どこのお店でも少しずつ進行している問題なんじゃないかと思うんですよ。そう考えると少し怖いですね。

そのうち、簡単に安く食事できる店があちこちから姿を消してしまうかも。

そして、それは「食べて応援」なんかじゃ救えないのがまた難しいところです。