歌詞の解釈シリーズ。
今日はKiroroの「長い間」という歌に感じる違和感について考えてみたいと思います。
あら、この動画には1番しか入ってないのね。でも一応公式を貼っておきます。
この歌は、
1番 Aメロ→Aメロ→サビ(1)
(間奏)
2番 Aメロ→サビ(2)
(間奏)
サビ(1)→サビ(2)→サビ(1)→サビ(2)
という構成になっています。
歌詞をざっと見渡してみて、二人称が「君」と「あなた」の二種類あることがわかります。
そのことから、この歌詞は二人の視点から書かれているものと思われます。
登場人物1・男性
- 長い間「君」を待たせている
- 忙しくてなかなか「君」に会えない
- たまに会った時の「君」の笑顔を大切に思っている
登場人物2・女性
- 「あなた」の言葉を信じて待っている
- 「あなた」に会えるときは笑顔でいようと思っている
1番の2回のAメロが男性目線、2番のAメロで女性目線の気持ちが描かれます。
このように、お互いの思いはきちんとリンクしています。
ここまでは良いのですが、違和感はサビの部分にあります。
まず、第一に。
1番がまだ終わる前、1回目のサビで突然、二人称が「あなた」に切り替わること。
このサビは、結局最後まで何度も繰り返しリフレインして歌われることになるのですが、まだ男性しか舞台に上がっていない状況でいきなり女性の声が聞こえてきた感じがして「誰?!」ってなってしまうんですよね。
まあでも、それは小さなことです。
それよりももっと重要な違和感がこちら。
サビの言葉、流れがちょっと複雑なんですよね。
「あなた」がわたしの心の多くを占めていることに気がついた
だけど
まさか「愛してる」なんて言えない
1番で男性は相手の女性のことを大切に思う気持ちを歌いました。
それから、2番の歌詞に「あなたの言葉を信じて」とある通り、男性はハッキリと言葉で女性に気持ちを伝えていることがわかります。
で、サビ。女性もまた相手のことを大切に思っている自分の気持ちに「気づいたの」。
それなのに、どうして「愛してるなんてまさか言えない」ってなるのでしょうか。
なんで? お互い好きなんじゃん!
そこは「愛してる」って言えよおぉぉ~~!ってなるんですよ。
しかも「まさかね」です。
「まさか」って全否定するほどに女性の中で「愛してる」が言えない言葉になってしまっていることに、聞いた人は「え、なんで??」とびっくりしてしまうのです。
次のサビでは「あなたの側では素直になれる」と言いながら、それでもやっぱり「愛してる」とは「まさか」言えないなのです。全然素直じゃないし。どういうこと?
さて、この歌には、個人的にちょっとした思い出があります。
大学の卒業式の日、その晩には謝恩会がありさらにその後の二次会で先生方とカラオケに行きました。
国文学専攻だったので、先生はみなさん言葉の権威みたいな人ばかりです。日頃は厳しい先生方ですが、その日はさすがに卒業生をお祝いしようという和やかなムードでお付き合いくださっていました。
そんな中、卒業生の一人が当時大流行していたこの歌を歌ったところ、にわかにカラオケルーム内が騒然となりました。
「なんだ、この歌おかしくないか??」
「そうですか? 二人称のブレが気になります?」
「いや、それよりもっと根本的な問題がある」
近世文学研究の巨匠と万葉集研究の大家、現代国文法マスター等の面々が歌詞についてああでもないこうでもないと検討をした結果。
「この歌詞はおかしい。筋が通らない」
と認定されました。
まさに「愛してるなんてまさか言えない」という部分が誤りである、と(笑)
学術的に誤りであると言い切って良いのかどうかはさておき、まあ違和感はあります。
そして、違和感を感じた人の心の中では、邪推が始まります。
もしかして不倫なのかしら?
ひょっとしたら恋の歌ですらないのかも?
結婚式の余興でこの歌を友達にリクエストした新婦が、自分で選んでみたものの不意に心配になって「この曲は結婚式向きですかね…?」などとネットの某知恵袋に相談を持ちかけてしまう始末です。
ネットで調べてみると、一応種明かしに当たるであろう情報はすぐに出てきました。
なんでも、この歌を作ったKiroroの玉城千春さんの友人が、遠距離恋愛で仕事が忙しい彼氏から長い間結婚を待たされていたが、このたびようやく結婚することになった、みたいな実際のエピソードをもとに、彼女の側の気持ちを想像して書いた、ということのようです。(原典は見つからず、諸説あるようなのでご参考まで)
なので、やっぱりこれはストレートに遠距離恋愛中の恋人の気持ちを歌ったものと考えて良さそうです。
「愛してる」と素直に言えないのは、長い間結婚を待たされていることに対するちょっと恨めしい気持ちから、だったりするのかな。
「結婚したいのは俺も同じだけど、仕事が落ち着くまでもうちょっと待ってね」とか「○○の仕事が終わったら結婚しよう」なんて言われながら、何年も待つのってどんな気持ちだろう。やっぱりモヤモヤとはしますよね。待っている間に確実に年は取る。
だから、そりゃ好きだしあなた以外の人と結婚するなんて考えられないし待つけど、そう易々と「愛してる」なんて言って喜ばせるのも癪に障る。あるいは、焦ってるとか重いとか思われたくない、みたいな。
そんな感じでしょうか。
そう解釈するとなんか生々しい!
やっぱり微妙に結婚式には向かないような気もしてきますね(笑)
とはいえ。
この歌は親しみやすいメロディに、ボーカルの玉城さんの柔らかな声が合っていて、とても素敵な歌です。流行っていた当時はわたしもよく聴いてましたし、カラオケでもよく歌いました。今聴いても素敵な曲ですよね。
違和感はさておき。
あんまりドロドロした気持ちは想像せずにただ、歌詞から自然と漂ってくるほろ苦さを味わいつつ聴くのが良いかもしれませんね。